飲食店において損益計算書は、経営状態を把握するための重要なツールです。本記事では項目の紹介や分析方法、作成のポイントなどを解説します。これから飲食店を開業する方、現在飲食店を経営されている方は是非ご覧ください。
損益計算シミュレーション表(Excel)を無料ダウンロードする目次
損益計算書の基本
飲食店における損益計算書は、税務申告に必要なだけではなく日々の経営判断や将来の経営戦略を立てる上で非常に重要な役割を果たします。ここでは、損益計算書について紹介します。
損益計算書とは?
飲食店における損益計算書は、一定期間(月次、四半期、年次など)の飲食店の経営成績を示す財務諸表です。 具体的には、売上(お客様からの収入)からその売上を得るために発生した費用を差し引き、最終的な利益(または損失)を明らかにするものです。
損益計算書の主要な勘定科目
損益計算書では、収益と費用を勘定科目ごとに分類し、最終的な利益または損失を計算します。ここでは主要な勘定科目を紹介します。
収益
- 売上高
お客様からの飲食代金の総額です。店内飲食、テイクアウト、デリバリーなど、すべての収入が含まれます。
- 営業外収益
本業以外の活動から生じる収益や費用です。受取利息や配当金、不動産収入などが該当しますが、飲食店においては小さい金額になることが一般的です。
- 特別利益
臨時的または偶発的に発生した経常利益です。店舗移転などで固定資産を売却した際に発生することがあります。
費用
- 売上原価
売れた飲食物を作るために掛かった費用のことです。具体的には主に食材費や飲料費を指します。人件費や家賃、光熱費などの間接的な費用は売上原価には含まないので注意しましょう。
- 販売費及び一般管理費
店舗の運営や管理、集客活動などに掛かる費用のことです。飲食店においては、主に以下の項目が該当します。
人件費 | ホール・キッチンスタッフなど社員やアルバイトの給与や賞与など |
法定福利費 | 従業員のために負担することが義務付けられている費用のこと、主に社会保険料などが該当 |
不動産賃借料 | 店舗の賃料 |
水道光熱費 | 水道・ガス・電気代 |
通信費 | 電話代・インターネット利用料など |
広告宣伝費 | チラシ作成や広告掲載費、販促キャンペーン費用など |
接待交際費 | 取引先との会食や従業員との親睦会などで発生した費用 |
保険料 | 火災保険や賠償責任保険など |
備品購入費 | 店舗備品を購入した際の費用 |
リース代 | 業務用冷蔵庫などのリース費用 |
旅費・交通費 | 従業員の移動費用など |
減価償却費 | 空調設備や厨房設備など購入時に支出が大きい固定資産 |
雑費 | 事務用品や組合費など、他の項目に当てはまらない費用 |
- 営業外費用
本業以外の活動で経常的に発生する費用のことです。借入金に対する利息や、店舗の備品や設備を売却した際の損益などが該当します。
- 特別損失
臨時的または偶発的に発生した損失のことです。災害による損失や訴訟による損失など、通常の運営とは関係なく発生した損失が該当します。
- 法人税等
店舗の利益に対して課される税金のことです。住民税や事業税、法人税などが該当します。
主要な利益項目と計算式
- 売上総利益:売上高 – 売上原価
- 営業利益:売上総利益 – 販売費及び一般管理費(販管費)
- 経常利益:営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用
- 税引前当期純利益:経常利益 + 特別利益 – 特別損失
- 当期純利益:税引前当期純利益 – 法人税等
損益計算書から分かること(分析のポイント)
損益計算書は、その期間にどれだけの収益がありどれだけの費用が発生し、その結果どれだけの利益(または損失)が出たのかを示します。損益計算書から分かることや分析のポイントを解説します。
収益性分析
各収益の収益率を計算し、過去の数値や同業他社との数値を比較することで、収益構造や収益性の変化、競争力を把握することができます。各収益の収益率を算出する計算式は以下の通りです。
売上総利益率(粗利率)
売上総利益 ÷ 売上高 × 100(%)
基本的な収益性を示します。この比率が高いほど、売上げ原価を効率的にコントロールできていると言えます。売上原価が高騰するとこの数値も低くなります。
営業利益率
営業利益 ÷ 売上高 × 100(%)
売上総利益から販売費及び一般管理費を引いたあとの利益率で、事業全体の収益性を示します。営業利益率が高いほど、効率的に利益を上げていると判断することができます。
経常利益率
計上利益 ÷ 売上高 × 100(%)
飲食店事業における収益に加え、それ以外の財務活動で発生した収益(受取利息や不動産収入等)を加えた利益の利益率を示します。営業利益率よりも広範囲の収益性を表すもので、経常利益率が安定して高ければ、外部環境の変化に強く安定経営ができていると判断することができます。
当期純利益率
当期純利益 ÷ 売上高 × 100(%)
税金や一時的な損益(特別収益・特別損失)を考慮した後の最終的な利益率を示します。事業の収益性だけではなく、コスト管理や税務戦略、税務戦略など経営活動全般の効率性を総合的に推察することができます。
費用構造分析
飲食店は、売上高が直接的に材料費や人件費に影響するため、費用構造の把握が利益確保に直結します。飲食店においては、特に以下の費用項目が重要視され分析の中心となることが多いです。
売上原価
原価率は飲食店において重要指標のひとつです。一般的な原価率は25~35%程度が目安とされていますが、業態などによって異なります。原価率は、仕入れ先の見直し、食材ロスや廃棄の削減、メニュー構成や価格設定の最適化など、売上原価の調整や売上高をあげるための施策を行うことで調整を試みることが可能です。
人件費
人件費率は、飲食店では30%前後が一般的とされています。人件費は、社員への基本給は固定給、パートやアルバイトなど時給制の給与は変動費と、固定費変動費どちらの側面も持ち合わせています。
曜日や時間帯の来店客数に合わせて配置人数を調整し、無駄な人件費が発生しないように管理することが重要です。人件費率は、シフト管理のほかにも提供時間の効率化によっても改善することができます。
不動産賃借料(家賃)
飲食店の家賃比率は10%以下が理想とされています。不動産賃借料は売上高に関わらず発生する固定費のため、一度契約すると変更が難しく高く設定しすぎると利益を圧迫します。
不動産賃借料はどのエリアに出店するか、駅近か住宅地かなどによっても大きく変動するので、店舗のコンセプトにも影響する部分です。立地については出店計画時によく検討し、想定する売上高に対して10%前後になるように調整しましょう。
損益計算シミュレーション表(Excel)を無料ダウンロードする損益計算書を経営改善に活かす具体的な方法
損益計算書は経営状態を示す成績表のようなものです。単に数字を眺めるだけではなく、分析し活かすことで経営改善を図ることができます。具体的な方法をいくつか紹介します。
課題の発見と原因究明
損益計算書を記録し、数字変動している部分をピックアップして深堀していきます。以下に具体例を用いて、考え方を解説します。
営業利益が低減した場合
営業利益は、「売上総利益-販管費」の式で算出されます。この営業利益が低減している場合は、以下の原因が考えられます。
①売上高自体が落ち込んでいる
売上総利益は「売上高-売上原価」の式で算出されるので、売上高自体が落ちていればそれに連動し売上総利益、営業利益も低減します。まずは売上高の推移を確認しましょう。
②売上原価の高騰
売上高に変動はなくても、売上原価が高騰すると売上総利益が低減します。仕入れ先の食材や飲料の価格が高騰していないか確認をし、食材の変更や仕入れルートの変更など改善できる方法を検討しましょう。
③販管費の増加
人件費を含めた販管費を確認し、増加している項目がないか細かく見てみましょう。不動産賃借料や保険料、人件費の一部は固定費のため調整は難しいですが、広告宣伝費やパート・アルバイトの人件費は変動費のためある程度の調整は試みることが可能です。
損益計算シミュレーション表(Excel)を無料ダウンロードする損益計算書作成の注意点と効率化
損益計算書を作成する際の注意点と効率化する方法について解説します。
正確な数値を正確なタイミングで記録する
損益計算書は正確な数字で作成しないと意味を成しません。支払い費用については支払い口座やクレジットカードを固定にし、計上漏れや二重計上がないように対策しましょう。
また、損益計算書は現金主義ではなく発生主義で作成することもポイントです。発生主義とは現金の動きではなく費用が「発生した時点」で計上する方法のことです。例えばクレジットカード決済で備品を購入した場合は実際に口座から引き落とされる月ではなく、購入した月で費用を計上します。また保険料を年払いした場合なども、実際に支払った月に全額計上するのではなく、月割りで計上します。
これは特定の期間(月や年度など)において、実際にどれだけの収益と費用が発生したのかを正確に把握するためです。
会計ソフトの活用
手作業での作成は手間と時間が掛かる上、ミスも起こりやすいため会計ソフトの利用もおすすめです。銀行口座やクレジットカードを連携することで取引データを自動で取り込み、損益計算書やその他税務申告の際に必要な書類の作成も可能です。
税理士との連携
税理士は、会計データをもとに損益計算書の作成も行うことができます。作成だけではなく経営状況の課題や改善点を具体的に指摘してもらうこともでき、資金繰りや利益率の改善についてのアドバイスを得ることも可能です。ただしその分費用は掛かるため、予算に余裕がある店舗におすすめです。
【無料DL】損益計算書シミュレーション表(Excel)

損益計算をシミュレーションできる表を下記から無料DL可能です。経営状況の分析や将来予測などにご活用ください。
損益計算書シミュレーション表(Excel)を無料ダウンロードするさいごに
飲食店の損益計算書の作成について、項目の紹介や分析方法、作成のポイントなどを解説しました。損益計算書は経営状況を把握するための重要なツールです。シミュレーション表を活用し、効率的な店舗運営を目指しましょう。