サブスクリプション(以下サブスク)と言えば、動画配信や音楽配信サービスなどを想起する方が多いと思いますが、近年は飲食店においてもサブスクサービスが注目を集めています。本記事では、飲食店のサブスクサービスの始め方やメリット、注意点について解説していきます。
目次
サブスクサービスの市場動向について
サブスクサービスの市場は近年拡大傾向にあり、私たちの生活に深く浸透しています。
2025年には1兆円規模に
画像引用:矢野研究所
矢野研究所の調査によると日本のサブスク市場は2023年に9,430億円、2024年に9,831億円、そして2025年には1兆円を超えると予測されており、年々大きく成長しています。矢野研究所の展望としては、コロナが明けた2024年以降、飲食店やテイクアウト分野、レジャー・エンタメ分野に関するサブスクサービスが伸びると見立てを立てています。
多数企業の参画による競争激化
これまでサブスクサービスと言えば、動画配信サービスや音楽配信サービスが主たるものでした。しかし近年では、ファッション系、美容系、書籍、おもちゃ、食品、レジャーなど様々な分野においてサブスクサービスが登場しています。ミニマリストやシンプリストなど物を持たないライフスタイルの流行からも分かる通り、所有するよりも必要なときに必要な分だけ利用する、ということに価値を見出す人が増加しています。
それにより、多数の企業が既存のビジネスモデルをサブスクに転換したり、新たなサブスクサービスを開発してリリースしています。競争が激化することによって各社は独自の強みを活かしたサービスを提供し、それによりサービス自体が洗練されていくため市場の活性化に繋がっています。
パーソナライゼーションの強化
今後はAIの活用が進むことで、一人ひとりのユーザーに合わせた商品やサービスを提案する、パーソナライズ化が進むことが予想されます。所有せず欲しいときだけ利用できる、というサブスクサービスはパーソナライズ化に対応することができるため、ユーザー一人ひとりのニーズに応えたサービスを提供することができるビジネスモデルと言えます。
飲食業界におけるサブスクサービスの需要
前段で述べた通り、市場全体におけるサブスクサービスの需要は、近年ますます高まりを見せており、飲食業界もその例外ではありません。背景には、業界の環境変化や消費者のライフスタイルの変化など、下記の要因があると考えられます。
・飲食業界の環境変化
・価値観の多様化
・利便性を重視したライフスタイル
飲食業界の環境変化
2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行は、飲食店業界に多大な影響を与えました。
テイクアウト・デリバリーの急成長
外出自粛の影響により自宅で食事をする人が増加し、テイクアウトやデリバリーサービスの需要が急激に拡大しました。多くの飲食店がテイクアウトメニューの提供やUberEATS などのデリバリーサービスと連携を開始し、新たなビジネスモデルも構築されていきました。
オンライン予約の普及
店舗内の混雑を緩和させるために、オンラインで事前予約や事前決済を行えるシステムの導入が加速しました。来店時のスムーズな受け渡しと会計を実現できるため、効率的な店舗運営にも貢献することになりました。
非接触サービスの普及
感染拡大防止の観点から、QRコードを読み取り自分のスマホから注文できるスマホオーダーシステムや、QRコード決済システムなどの非接触サービスが普及しました。
ニーズ・価値観の多様化
オーガニック志向やヴィーガン志向、グルテンフリーなどの健康志向、環境配慮志向など、以前よりもユーザーの食に求めるニーズは多様化しており、特に若年層をターゲットにする場合はそのニーズに応えていくことが重要です。
また、ホットペッパーグルメ外食総研の調査によると、外食に対して「食べること」だけではなく「非日常性」や「レジャー性」を求めている人が多いことが分かっています。
参照:ホットペッパーグルメ外食総研/株式会社リクルートライフスタイル
利便性を重視したライフスタイル
飲食店のサブスクサービスは月額定額制を基本としているため、店舗を利用する度に発生していた会計時間を省くことができ、予算も立てやすく家計管理にも役立ちます。効率的な生活をするために出来るだけ選択する場面を減らしたい、という最近のシンプルライフ思考とも相性が良く、飲食店のサブスクサービスの需要は高まりを見せていると考察できます。
飲食店がサブスクサービスを導入するメリット
ここでは、下記の飲食店がサブスクサービスを導入するメリットについて解説していきます。
・リピーターの獲得と顧客ロイヤリティ向上
・売上げの安定化
・顧客データの活用
・食材ロスの削減
リピーターの獲得と顧客ロイヤリティ向上
サブスクサービスは継続的に利用することが前提となるため、サブスクサービスの利用者増加はリピーターの増加に直結します。また、サブスクサービス利用者は定期的に来店するためコミュニケーションも取りやすく、顧客ロイヤリティ向上にも繋がります。
売上げの安定化
定額制のサブスクサービスは、毎月一定の金額を得られることになるため売上げを安定させることができます。また、「サブスクサービスの顧客数×月額」がサブスクサービスにおける単純売上げとなるので、顧客数の把握ができていれば売上げ金額も把握でき、将来の収益予測もしやすくなります。
顧客データの活用
顧客の注文履歴や利用頻度などの購買行動データが蓄積されるため、それらを分析することで新メニューやサービス開発にも活用できます。また、定期的に来店してくれるサブスクサービスユーザーはアンケートなどによる情報収集も依頼しやすく、履歴データ以外の新たなデータも取得しやすいと言えます。そのデータを活用することで、店舗全体のマーケティング施策にも活用できます。
食材ロスの削減
サブスクサービスは一定期間内の需要をある程度予測できるため、仕入れ量の調整がしやすくなります。これにより、過剰な仕入れによる食品ロスを減らすことに繋がります。また、サブスクのメニューによっては余剰食材を別メニューに活用したり、顧客に提供するなどの取り組みも可能です。
消費者が感じている飲食店のサブスクサービスのメリット
ここでは、飲食店のサブスクサービスの消費者側のメリットについて、当社が独自に取得した「飲食店のサブスクサービスに関する意識調査」アンケート結果をもとにご紹介します。
コスパ面・タイパ面でのメリットが大きい
n=688 2つまで選択可
飲食店のサブスクサービスを利用したことがある男女500名を対象に、そのメリットを伺ったところ「お得にサービスを受けることができる」が41%、「都度の支払い作業が不要など、気軽に利用できる」が32%で最多の結果となりました。
サブスクサービスにはお得感や利便性、効率性を求める人が多いことが伺えます。コスパ(コストパフォーマンス)だけではなくタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する人がサブスクサービスとの親和性が高い、ということが推察できます。
飲食店がサブスクサービスを始めるためのステップ
飲食店がサブスクリプションサービスを始めるためには、準備と計画が必要です。ここでは、下記のステップごとの詳細を解説します。
・ターゲット顧客の選定
・プラン内容の設計
・システム導入
・顧客へのプロモーション
ターゲット顧客の選定
まずは、どの顧客層に対してサブスクサービスを提供するのかを決めていきます。常連客や従業員にヒアリングしたり、競合店の調査を行うことで顧客ニーズを探ることから始めると良いと思います。また、ターゲット設定には、年齢、性別、ライフスタイルなど、詳細な情報からユーザー像を具体化するペルソナ設定する方法がおすすめです。下記からペルソナシートのテンプレートがDL可能なので、是非ご活用ください。
ペルソナシートを無料ダウンロードする▼ペルソナ設定に関する解説は下記記事をご参考ください。
ターゲット顧客の選定
ターゲットを決定したら、サブスクサービスのプラン内容を設計していきます。どのようなメニューをサブスクサービスとして提供するのか、オペレーション面やコスト面、運用面などいろいろな側面から検討していきます。
費用別にランクを設けるか、利用上限は週何回か、利用期間に制限はあるか、本人以外の利用はOKかなど、運用後にユーザーが困らないように、この段階で利用条件やルールを細かい部分まで明確にしましょう。
ターゲット顧客の選定
POSシステムと連携する場合、利用しているPOSシステムがサブスク管理システムを搭載・連携しているかを確認しましょう。状況によってはPOSシステムを入れ替えるなどの作業が発生します。
その他にも、会員情報管理やポイント管理、クーポン発行機能など、運用に必要な機能を利用するためにはどうしたら良いかを考え、必要に応じてシステム導入を検討しましょう。
顧客へのプロモーション
運用体制が整ったら、サービスをローンチして集客活動を開始します。まずは既存顧客に対して、店内のPOPやポスター、チラシなどでサブスクサービスを紹介しましょう。既存顧客限定のお得キャンペーンなどを行うのも特別感の演出にもなり効果的です。
新規顧客に対しては、SNSや店頭POP、チラシ配りやポスティングなどを駆使して集客を試みましょう。顧客獲得のために、初月無料や割引クーポンなどを配布するのも効果的です。コストが発生するような集客施策は、サブスサービスの利益率や顧客獲得に掛けられるコストなどを計算し販促費用の上限を決めておきましょう。
飲食店が展開するサブスクサービス事例3選
ここでは、サブスクサービスを導入し運用している飲食店をご紹介します。
※プランの内容は2024年12月時点のものです
本格ハンドドリップコーヒー飲み放題「Coffee mafia」
画像引用:Coffee mafia 公式サイト
Coofee mafia(コーヒー マフィア)は、「日常を豊かにしてくれるコーヒーをもっと気軽に、もっとお得に」がコンセプトのコーヒーショップです。月会費を支払うことで、1日1杯を上限にコーヒーが飲み放題できるサブスク会員メニューを提供しています。東京、大阪に複数店舗展開しています。
▼主なサブスクメニュー
STANDARD:3,980円/月
QUICK5:1,980円/月 ※月5回まで利用可能
その他メニュー:Coffee mafia 定額プラン一覧
定額通い放題のサブスクフレンチ「Provision」
画像引用:Provision 公式サイト
Provision(プロヴィジョン)は、新聞や雑誌の定期購読のように、気軽にふらりと立ち寄りワインや食事を楽しんでほしい、という思いからサブスクプランを展開しています。会員を含め4名分の飲食代を月額費用内で賄うことができ、利用回数の制限もありません。
▼主なサブスクメニュー
Unison:55,000円/月 ※一部追加料金メニューを除く
De Luxe:88,000円/月 ※高級料理食材含むすべて込み
ギョウザ定期券「福しん」
画像引用:福しん 公式サイト
福しんは、東京池袋を中心としたラーメン・定食チェーン店です。「ギョウザ定期券」は、月額500円で、1来店ごとに1人前(6個)の餃子が追加の支払いなしで毎日食べられるサブスクメニューです。来店ごとに350円以上の注文をすることが利用の条件です。
▼主なサブスクメニュー
ギョウザ定期券:500円/月
飲食店がサブスクサービスを導入する際の注意点
飲食店がサブスクリプションサービスを導入する際に、成功させるためには注意が必要です。以下の主な注意点について解説します。
・初期費用と運営コストを明確にする
・サブスクに合ったメニューの企画・開発
・顧客管理システムの見直し
・スタッフの教育とオペレーション強化
・競合店との差別化
初期費用と運営コストを明確にする
まずはサブスクサービスを開始する上で発生するコストをシミュレーションし、明確にしましょう。原価率や人件費を含めた運営コスト、集客費用などを緻密に計算し、持続可能な価格設定を行うことが重要です。また、「常時何人がサブスクサービスを利用している状態がプラスの収益になるのか」などの損益分岐点も把握しておくことで、集客施策も効率的に行えるようになります。
サブスクに合ったメニューの企画・開発
飲食店においてサブスクサービスを始めるためには、サブスクに最適なメニューの企画・開発が必要です。顧客のニーズに合致し、継続的な利用を促すための戦略的要素が求められます。
サブスクサービス向けのターゲットを細かく設定しましょう。例えば「忙しく時間がない朝の男性会社員向け」や「オーガニック志向の30代女性」など、ペルソナ設計をすることでメニューのコンセプトを絞り込むことができます。
ペルソナシートを無料ダウンロードする顧客管理システムの見直し
サブスクサービスを導入するにあたり、顧客管理は重要です。会員カードや紙チケットなどアナログで運用することも出来ますが、会員IDや契約期間、支払い情報、利用状況などをシステムで一元管理することで、データを蓄積できるとともに販促施策やメニューの企画・開発にも活用できます。
スタッフの教育とオペレーション強化
サブスクサービス提供・管理・運用に関するオペレーションを整備し、スタッフの教育までの準備を事前にしっかり行いましょう。特にサブスクサービスユーザーの対応方法やトラブル時の対処方法については何度もシミュレーションを行い、マニュアル化して標準的な接客ができるようにしておくことが理想です。
競合店との差別化
冒頭で解説した通り、近年飲食店におけるサブスクリプションサービスは増加傾向にあります。その中で、自店舗の強みを打ち出し競合店と差別化することは重要なポイントです。
自店舗にしか提供できない価値と顧客のニーズを掛け合わせ、バランス良いサービスが提供できることが理想です。自店舗にしか提供できない価値については、食材や料理法、オリジナリティなどのメニュー内容の場合もありますし、参加型のワークショップや体験教室などのイベント開催、顧客同士のコミュニティ形成など、店舗によって様々です。
自店舗と競合店のSWOT分析を行い、競合店にはない自店舗の強みを活かしたサブスクサービスを打ち出しましょう。
SWOT分析含むマーケティングテンプレートを無料ダウンロードする飲食店がサブスクサービスを導入する際の注意点
飲食店のサブスクサービスを始めるにあたり、始め方やメリット、注意点について解説しました。サブスクサービスは時代の需要に合致し、定期的に安定した収益が得られる魅力的なサービスモデルですが、事前準備を怠ると損失を生んでしまうリスクもあります。サブスクサービスを検討している飲食店経営者の方は、この記事を企画・開発に活用していただければと思います。