飲食店のクレーム対応|顧客満足度を高めるための実践ガイド

飲食店のクレーム対応|顧客満足度を高めるための実践ガイド

お客様の不満を真摯に受け止め適切に対応することは、信頼関係を築きリピーターを増やすための重要な機会となります。本記事では、飲食店のクレーム対応のポイントや流れ、NG行動について詳しく解説します。

クレーム対応が重要な理由

飲食店におけるクレーム対応は、顧客満足度向上、店舗の評価・評判に関わるため重要なポイントです。東京都で2025年に施行されたカスハラ防止条例と併せて、重要な理由を解説します。

顧客満足度向上に繋がる

お客様は料理やサービスに期待を持って来店しますが、その期待が裏切られたと感じると飲食店にクレームを入れることがあります。クレームを行うということはその裏側に自店舗への期待があるということを念頭に置いて、真摯に対応しましょう。お客様の不満を軽減することで場合によっては期待以上の満足感を与えることができ、再来店意欲の向上、リピーター獲得に繋がります。

店舗の評価・評判に影響する

クレームを行ったお客様は、飲食店の対応に不満があればSNSや口コミサイトなどでネガティブな情報を発信する可能性があります。適切にクレーム対応を行うことでそのような事態を防ぎ、自店舗の評判を守ることに繋がります。また、クレームへの迅速かつ丁寧な対応を行うことができれば、ポジティブな評価を獲得でき口コミを拡散してもらえる可能性もあります。

2025年に施行された東京都のカスハラ防止条例

2025年4月1日に施行された東京都の「カスタマーハラスメント防止条例」は、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント、通称カスハラ)を防止し、就業者が安心して働くことができる社会の実現を目指す全国初の条例です。

東京都でこの条例が施行された背景には、カスハラが深刻化し従業員の就労環境に悪影響を与え、離職の発生が社会的に深刻な問題となっているという現状があります。

条例の概要は以下の通りです。

  • 条例の内容
  • カスハラの一律禁止
  • 都、顧客等、就業者、事業者の責務を定める
  • 顧客等の権利を不当に侵害しないように留意し、条例を適用する
  • 都はカスハラの防止に関する指針(ガイドライン)を策定し、必要な事項を定める
  • 罰則
  • 条例自体には、カスハラを行った者に対する直接的な罰則規定はありません。ただし、暴行、脅迫、強要、名誉棄損などの行為は、刑法等の規定により罰せられる可能性があります。

参考:カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)/東京都産業労

カスハラとクレームの違い

カスハラとクレームの違いについて表でまとめましたので、ご参考ください。

項目 クレーム カスハラ
目的・意図 商品やサービスへの不満を伝え改善要求や適切な対応を求める。正当な権利の主張。 相手を困らせたり精神的苦痛を与え、業務を妨害する。
主な内容 商品が壊れている、サービスが悪い、説明が足りないなど、事実に基づいた不満。 怒鳴る、脅す、バカにする、何度も、土下座させる、お金を無理やり要求する、SNSで悪口を言う、差別的な発言などひどい言動。
言動の程度 論理的、建設的な意見や要望が多い。感情的な表現を含む場合もあるが、常識的な範囲内。 社会通念上許容される範囲を著しく逸脱した言動。執拗性、悪質性、継続性、業務への支障が大きい。
対応のポイント 問題点の特定と解決、顧客満足度の回復。 就業者の安全確保、精神的・身体的負担の軽減、業務の正常な遂行の維持。毅然とした対応が必要となる場合がある。

クレームを訴える顧客の心理

飲食店にクレームを訴えるお客様は、単に「不満がある」というだけでなく、様々な感情や期待が入り混じっていることが多々あります。主な心理としては、以下のようなものが考えられます。

不満や期待外れを感じている

提供された料理の味や温度、提供スピードに不満があった、盛り付けが写真と違った、従業員の態度が不快だった、店舗が不衛生だったなど、期待していた水準に達していなかった際に不満を感じ、クレームに繋がります。

問題を解決し再発防止に努めてほしい

ただ単に不満をぶつけたいだけではなく、店舗側の改善を求めているケースも多くあります。「同じ思いをする人が出てほしくない」という強い正義感から、お客様側から具体的な改善策を提案することもあります。そのような方には、今後の対応について検討する旨を示すなど、誠実に対応しましょう。

ストレス発散・感情のはけ口

仕事やプライベートで溜まったストレスが、飲食店で小さな不手際や理不尽な事象と出会った際に表出してしまうことがあります。この場合、クレームの内容以上に感情的に訴えてくる方がいます。溜まったストレスにより優位に立ちたいという無意識な思いが生まれ、飲食店側に求めるサービスのハードルが高くなり、小さなことにクレームを訴えてくる場合もあります。

注目を集めたい

クレームを訴える方の中には、他のお客様やスタッフに自分の不満を聞いてほしい、それにより注目を集めたい、という心理が働く場合があります。これはカスハラに近い考え方かもしれませんが、共感を得たいという気持ちが強い場合が多いため、話を聞くことで鎮静化する傾向にあります。

クレーム対応基本の4ステップ

お客様のクレームに適切に対応するためのポイントを、4ステップに分けて解説します。

①傾聴と共感

まずはお客様の話を遮らず最後まで聞き、内容を正確に把握しましょう。そして不快な思いをしているお客様の感情に寄り添い「不快な思いをさせてしまい申し訳ない」という共感の言葉を伝えることで、お客様の怒りや不満も落ち着く可能性があります。

②事実確認と状況把握

お客様が話した内容について、冷静かつ迅速に事実関係を確認しましょう。必要に応じてスタッフや記録などを参照します。ここでも感情的にならないように注意し、客観的な視点で事実や状況を確認することが大切です。

③解決策の提示と実行

事実確認をしっかり行った後、それに基づきお客様の要望や状況に応じた適切な解決策を考え提示しましょう。可能な範囲でお客様が納得できる解決策を探ることが重要です。いくつか解決策を提示し、お客様に選んでいただくのも有効な手段です。

例えば料理に関してのクレームだった場合、無償での作り直しか返金、次回利用時の割引クーポンなどが解決策として考えられます。

④再発防止と感謝

今回のクレームを教訓とし、今後同じようなことが起こらないように対策を検討しましょう。スタッフ間にもクレームの事実や解決した方法を共有し、今後同じようなことが発生してしまった場合の対応策として参考にしてもらいます。

また、クレームをしたお客様に対しては「貴重なご意見をいただきありがとうございます」などの感謝の気持ちをしっかり伝え、今後も利用していただくことをお願いしましょう。また、最後に感謝の言葉で締めくくることで、口コミサイトやSNSなどによる風評被害防止にも繋がります。

シチュエーション別!例文付きクレーム対応のポイント

飲食店で起こり得る様々なシチュエーションを想定し、例文付きでクレーム対応のポイントをご紹介します。

料理の提供が遅い

  • お客様の状況:イライラしている、時間に追われている
  • 対応のポイント:まずは遅延を謝罪し、状況を説明、提供時間の見込みを伝え
    • <例文>
    • 「お客様、大変お待たせしており申し訳ございません。ただ今、調理に少々お時間をいただいておりまして、あと5分ほどでご提供できる見込みです。度々恐縮ですが、もう少々お待ちいただけますでしょうか。」


      「お急ぎのところ、ご迷惑をおかけし申し訳ございません。ただ今、厨房が混み合っておりましてお料理の提供が遅れております。重ねてお詫び申し上げます。」

    料理に異物が混入していた

  • お客様の状況:不快感、嫌悪感、健康・店舗の管理体制への不安
  • 対応のポイント:深く謝罪し、原因を究明、誠意ある対応を示す
    • <例文>
    • 「お客様、大変申し訳ございません。ご提供したお料理に異物が混入していたとのこと、深くお詫び申し上げます。すぐに新しいものと交換させていただきます。また、原因を至急調査いたします。」


      「この度は、大変不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。すぐに該当の品を回収し、詳しく調べさせていただきます。お客様の健康状態はいかがでしょうか。何かご心配なことがございましたら、遠慮なくお申し付けください。」

    注文と違う料理が提供された

  • お客様の状況:混乱、不満
  • 対応のポイント:誤りを認め謝罪し、正しい料理を迅速に提供する
    • <例文>
    • 「お客様、誠に申し訳ございません。店舗側のミスによりご注文いただいたものと違うお料理をご提供してしまいました。すぐに正しいものをお作りいたします。」


      「私の確認不足でお客様にご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。すぐに○○(正しい料理名)をご用意させていただきます。よろしければ、こちらのお料理はお召し上がりにならずにお待ちください。」

    接客態度が悪いと感じられた

  • お客様の状況:不快感、怒り
  • 対応のポイント:お客様の感情を受け止め謝罪し、改善を約束する
    • <例文>
    • 「お客様、この度は私の接客でご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。お客様の立場に立った丁寧な対応を心がけるよう、改めて指導いたします。」


      「ご指摘いただきありがとうございます。お客様に不快な思いをさせてしまったこと、深くお詫び申し上げます。今後このようなことがないよう、スタッフ一同改善に努めてまいります。」

    会計が間違っていた

  • お客様の状況:不信感、不満
  • 対応のポイント:誤りを謝罪し、すぐに正しい金額に修正する
    • <例文>
    • 「お客様申し訳ございません。会計に誤りがあったようでございます。ただちに確認し、正しい金額に修正いたします。」


      「ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。こちらの金額をご確認ください。過剰にいただいた分は、すぐに返金させていただきます。」

    お客様が主張している内容を全て受け入れて謝罪を行う必要はありませんが、クレームを行う時点でお客様が不快に思っているという点は事実なので、まずは不快な気持ちにしてしまったことを謝罪しましょう。その後しっかりと事実確認を行い、適切な対応を心がけましょう。

    クレーム対応で「やってはいけない」NG行動

    クレーム対応において、事態を悪化させたり、お客様の不満を増幅させたりする可能性のある「やってはいけない」NG行動についてご説明します。

    言い訳や責任転嫁

    クレームの原因について他の従業員のせいにしたり、会社のルールだからといった言い訳をしたりすることは、お客様にとって全く納得のいくものではありません。責任の所在を曖昧にしたり、責任逃れをするような態度は、信頼を大きく損なう原因となるためしないようにしましょう。

    感情的な反論や無視

    お客様が感情的になっている場合でも、こちらも感情的に言い返したり、逆ギレしたりすることは絶対に避けなければなりません。冷静さを失った対応は事態を収拾不可能にし、お客様の怒りを増幅させるだけです。

    他人事のような態度

    「私には分かりかねます」「責任者がおりませんので」といった、責任回避とも取れる発言は、それが事実だったとしてもしないようにしましょう。お客様は目の前にいるスタッフが店舗の代表として対応してくれることを期待しています。対応に確認が必要な場合は、「責任者に確認しますので少々お待ちください」など、状況を共有し真摯に対応しましょう。

    SNS上での吊し上げや個人攻撃

    クレームを行ったお客様の個人が特定できるような形でSNSに発信することは、様々なリスクがあるので避けましょう。法的リスクとしては、名誉棄損罪や侮辱罪に問われる可能性があります。また、店舗・企業イメージの悪化にも繋がり、他のお客様からの信頼が失われるなど集客にも影響が出るかもしれません。

    クレーム対応を組織的に取り組むために

    飲食店のクレーム対応を組織的に取り組むことは、顧客満足度向上、従業員の負担軽減、そして企業全体の成長に不可欠です。以下に、そのための具体的なステップとポイントを解説します。

    まずは、現場のスタッフが初期対応を行う際の権限と責任範囲を明確にしましょう。どこまでを現場で判断して良いのか、どのような場合に責任者に対応を相談すべきかを定めます。また、責任者が不在の際に起きてしまったクレームについての対応方法の明確化、責任者の代わりに対応する者を選定するなど、初期対応が混乱しないような仕組み作りを行いましょう。

    クレーム対応マニュアルの作成と見直し

    クレームの発生、傾聴、謝罪、事実確認、解決策の提示、フォローアップといった一連の流れを明確化したマニュアルを作成します。実際にあったクレームとその対応をケーススタディとして掲載するなど、定期的に内容を見直して更新しましょう。また、スタッフから良く聞かれるような内容をFAQ形式でまとめ、スタッフが迅速かつ適切に対応できるようにしておくと効率的です。

    スタッフへの研修・ロールプレイングの実施

    クレーム対応に必要なスキル、例えば傾聴力やコミュニケーション能力、問題解決能力などを向上させる研修を実施することも有効です。様々なクレームの状況を想定したロールプレイングを行い、実践的な対応力を養いましょう

    さいごに

    飲食店におけるクレーム対応のポイントや流れ、NG行動について解説しました。お客様からのクレームがあると焦ってしまったりパニックになってしまいがちです。クレーム対応は初期対応が非常に重要なので、毅然とした態度で臨めるようしっかり準備するようにしましょう。


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